カナリヤ

ひさしぶりのデートを終えて、部屋に戻ってみると

大変な事になっていた。

 

部屋中の家具と言う家具に、猫の爪後だらけ。

その上、
雑誌はビリビリに破かれ、散乱し、ソファーまでところどころに

穴が開いているではないか……?

いったいどうしたというのか?

俺は犯人の姿を探した。

 

「こら!カナリヤ!なんてことを……

 

息を飲んだ!

 

猫は一点を見つめていたのだ。

 

ほぼ寝室の中央にあるベットの上にカナリヤはリンと座り、

長いしっぽを前にそろえていた。

そして、見つめているのは……亡き妻の写真……?

 

「カ、カナリヤ……、お前……?」

 

声に反応してか、彼女は優雅に振り向いた。

青く輝く瞳が……悲しげだった。

 

妻の面影が猫と重なった。

妻と同じ名を持つ貴婦人……

彼女の姿には気品が漂っている。


カナリヤ……お前なのか?

 

 

俺の心は後ろめたさでいっぱいになった。

カナリアは叫んでいる

何かを……何かを……忘れていないか?……と。

 

動けなかった。

猫の目が離れ、いつものカナリヤのしぐさに戻るまでは……

 

 

夜がやって来た。

部屋には月の光りが差していた。

 

まだ、電気をつける気にもなれず……散らかった部屋の中に座り込んでいた。

あぐらをかいたひざの上には、カナリアが眠っている。

何もなかったように、彼女の表情はおだやかだった。

 

俺は考えた。

ただ、考えた

今日の出来事を……

 

月明かりを仰ぐととても悲しくなって来た。

でも、頬に涙がこぼれる事はなかった。

 

その時、電話が鳴った。

カナリヤをそっと膝から、クッションに移し、俺は静かに立ち上がった。

 

あの女性(ひと)からだった。

次の日曜、また映画に行きたいと語り、俺が何かを言い出す前に、

またしても電話は切れていた。

 

カナリヤを見てみた。

彼女はいつのまにかこちらを見つめ、ゆっくりと顔を両腕の中に沈めた。

しかし、その目は……じっと俺を見据えている。

俺の下心を見抜くかのように……

 

 

                       6p

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