−はかねの煙り−           

                                                             作:闇魔

 

 


揺らぐ湯煙。
露天風呂の中には私しかいなかった。

 

冬の秋田は、私のあこがれの地だった。
不意に出来た休暇旅行にこの土地を選んだのは当然と言える。

だから、心から満足感に浸る私に
あんな事が起こるとは正直思いもしなかった。

 


それは今日の夕方、起こったのだ!


彼女は死んでいた。


あきらかに私にはそう見えた。

 

予約した旅館に向う途中の山道。
人気のない薄暗い道のほぼ中央に、彼女は疲れたように倒れていた。

「なんなんだ……いったい……?」

ブルブルと唸る車を降りた私は……恐る恐る近かづいてみた。

「あの……大丈夫ですか?」


いまさら……と思えるぐらい、
足下にはベッタリと大量の血が滲んでいる。

良く見ると彼女の右手と左手がねじれ、完全に折れている。

だが、顔だけは地面になだれていて、よく見えない。
長い黒髪がかすかに風に揺れている。

やっぱり、死んでるよ。この女……”

回りを見回してみた。

あたりにはただ鬱蒼とした森があるだけで他にはなにもない。

ひき逃げか……

そうとしか思えない状況だった。

 


けど、彼女を退けなければ目的地につけない。

そう、道はせまくユータンなどできる余裕はないのだ。

「そうだ! 携帯……

110を押そうとした時、不意に思った。

なんで警察なんか……? 死体を脇にずらせばすむ事だ

内心、そう考えた。


だが……

 


おもむろに風が吹いて来た。

無言で私はたたずんだ。

死体をさわる?
この私が……

死体の髪が……揺らいでいる。

私の脳裏に、
意外な発想が渡来したのは……その瞬間だったのである。

 


作:闇魔

 

 

 

-1p-

 

 

 

つづく??

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